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中国語ゲームローカライズ、簡体字か繁体字か ――配信成功のカギは「スピード」と「親和性」

日本のゲームを中華圏に配信する際、最初に問われるのが「中国語簡体字版を作るべきか」「繁体字版を作るべきか」という選択ではないでしょうか。市場規模では簡体字(中国本土)が圧倒的だと思われそうですが、法規制や審査制度など、配信の難易度に影響を及ぼす要素も検討する必要がありそうです。本コラムでは両市場の特徴を比較しながら、ゲームの中国語ローカライズにおける簡体字と繁体字の展開について考えます。

目次

1. 中華圏展開、最初の分岐点

中国本土のゲーム市場は実に巨大で、市場調査・コンサルティング会社のNiko Partnersの調査では2025年度の予測値は「50.7 十億米ドル」(約 50.7 billion USD)と言われています(出典:Niko Partners )。

一方で、台湾・香港といった繁体字圏は、市場規模は小さいものの、日系ゲームへの親和性が強い成熟市場であり、課金率も比較的高いと言われています。そのため、規模は小さいものの、文化的な近さと展開のしやすさで優位性がある市場と言えそうです。

つまり、簡体字は巨大市場だがリスクが高め、繁体字は規模が小さいがリスクが低めという構図が見られます。

2. 規制比較:市場の大きさ vs 審査の厳しさ

  • 中国(簡体字)
  • 「关于落实国务院归口审批电子和互联网游戏出版物决定的通知」および「电子出版物出版管理规定」などの関連法令(注1)によると、中国ではゲーム配信にあたって「版号(ISBN)」の取得が必須とされています。この「版号」は国家新聞出版署(NPPA)が発行するもので、許可を得なければ配信できません。中国の厳しい規制については、「ゲームメーカーズ」様の2025年3月15日の記事に詳しく解説されています。

    参考:ゲームメーカーズ様 「厳しいゲーム規制はなぜ生まれ、開発者はどう対処してきたか。コンソール市場から紐解く中国ゲーム産業の歴史【「中国ゲーム市場」徹底攻略Vol.02】』https://gamemakers.jp/article/2025_03_15_94852/

    また、流血・死体・宗教・政治的要素などの表現の規制や、海外企業は現地パブリッシャーとの提携やデータ保管義務を満たす必要があり、リリースまでの準備期間が長期化することもあるようです。

  • 台湾(繁体字)
  • 繁体字圏では、版号制度が存在せず、配信までの手続きが比較的シンプルです。
    台湾では「遊戲軟體分級管理辦法」(注2)に基づき、年齢区分と警語を表示し、政府サイトに登録するだけでリリースが可能です。表現の自由度が高く、文化的な柔軟性を保てる点が、繁体字市場の大きな魅力です。

    3. 結論:まずは繁体字で市場に出る

    総合的に見ると、最初に狙うべきは台湾を中心とした繁体字圏といえそうです。
    リリースまでのスピードが早く、費用も抑えられ、ユーザーの反応を得やすい。さらに、台湾プレイヤーは日本のゲーム文化への理解が深く、SNSでの口コミ効果も期待できます。
    一方で、中国本土は規制対応・版号申請など長期的な計画が不可欠です。
    したがって、「繁体字で先行 → 簡体字で拡張」という二段階戦略が、リスクを抑えつつ市場を広げる最も現実的な道ではないでしょうか。

    4. 実務視点:アーリーエントリー市場としての台湾を活かす

    中華圏への展開を考えるとき、台湾は「テストマーケット(アーリーエントリー市場)」として最適です。文化的親和性が高く、法規制が穏やかで、ユーザー層が日本ゲームに慣れているという条件は、リスクを抑えながら中華圏UI・UXを検証する理想的な環境といえるでしょう。

    考えられるのは、台湾で先行配信をしながら、中国本土での配信を探るというモデルです。台湾版を先行配信することで、実際のユーザー行動データや課金導線、UI反応を分析し、これらのデータを基に、中国本土向けの配信計画を進めるという考え方です。

    また、台湾ユーザーはSNSでの共有・レビュー投稿に積極的で、早期から自然な口コミが得られます。このフィードバックを表現、UI文言、課金導線の最適化に反映することで、本土向けの規制対策やユーザー体験を構築していく可能性が高まりそうです。

    5. 繁体字も簡体字も――翻訳のプロにおまかせを

    中国語繁体字と中国語簡体字の違いは、文字だけではありません。 アイテム名やUI用語も言い回しが異なるものが多く、文章表現自体を書きかえていく必要があります。

    例えば、「ハーデース」というモンスターの名前を中国語にするとき、繁体字では「黑帝斯」簡体字では「哈迪斯」というように、用いる漢字自体が異なります。また「ぐぉぉぉぉ」という擬音語は、漢字だけでなく表現自体が異なってきます。こんな風に、中国語繁体字と中国語簡体字は文字だけでなく、言い回しなどが異なってくる場合が多くあります。

    ミエトランスレーションサービスでは、台湾・中国両市場に精通した専門チームが、中国語「繁体字と簡体字」ローカライズの両方に対応。さらに、利用規約、ガイドラインなどの法律文書の翻訳もワンストップで行っています。繁体字も簡体字も、中国語ならミエトランスレーションサービスにご相談ください。