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AIによる中国語翻訳の考察  〜part1 法律&契約書

AIは日々進化し、学生からビジネスマンまで、誰もが日常的にAIを使用する時代になりました。私たちミエトランスレーションサービスも中国語専門の翻訳会社として、翻訳のジャンルにおいて、効率と品質を同時に高められる「AI(翻訳)+PE(人手ポストエディット)」を日々研究しています。

中国語翻訳に関していうと、AIはとてもよい仕事をします。AIに下訳をさせることで、業務の生産性が驚くほど高まり、同時にコスト削減が達成できます。

しかし、成功の鍵を握るのは、やはりAIを使いこなす「ヒト」にあります。AIに精度の高い中国語翻訳をさせる、あるいはAI翻訳の正誤を確認し、校正する人の力は欠かすことができません。

このコラムでは、AIが中日翻訳した契約書や法律を、PE(人手ポストエディット)という人の手が入ることによって、どのように精度があがるかを解説していきます。

※ 弊社が使用しているAIは無料版ではなく、セキュリティが保証された有償版の製品で、販売販売元とNDAを締結しています。

1.法律(労働基準法)のAI中国語翻訳

台湾の労働基準法をサンプルとしてAIで下訳をしてみます。ここでは、箇条書きで、比較的短くわかりやすい第11条を使用しました。

【原文】
第11條 非有左列情事之一者,雇主不得預告勞工終止勞動契約:
一、歇業或轉讓時。
二、虧損或業務緊縮時。
三、不可抗力暫停工作在一個月以上時。
四、業務性質變更,有減少勞工之必要,又無適當工作可供安置時。
五、勞工對於所擔任之工作確不能勝任時。

※出典: 台湾全國法規資料庫

【AI中国語翻訳】
第11条
下記のいずれかに該当する場合を除き、雇用者は労働者に対し、労働契約を予告によって終了させることはできない。
一、事業の閉鎖または譲渡を行う場合。
二、損失の発生または業務の縮小がある場合。
三、不可抗力により1か月以上業務が停止された場合。
四、業務の性質が変更され、労働者を減らす必要があり、かつ適切な配置先がない場合。
五、労働者が現在の職務を明らかに遂行できない場合。

いかがでしょうか。AIが和訳した条文は少し理解しにくいように感じますが、なんとなく意図するところはくみ取れるようにも思えます。「雇用者は、解雇予告をしたとしても、労働者を解雇できない場合がある」ことを定めた条文ですね。日本の労働基準法第20条「解雇の予告」の条文を参照してみます。
日本の労働基準法第20条 解雇の予告から抜粋

但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

この台湾の労働基準法第11条のAI翻訳文をもう少し理解しやすくするために、人手ポストエディットによって編集してみます。AIは原文の構造、文の構成をそのまま訳文に反映させることが多いため、人の手で、主語や述語を明確にし、対応させるように文を組みなおします。

AI中国語翻訳
下記のいずれかに該当する場合を除き、雇用者は労働者に対し、労働契約を予告によって終了させることはできない。
PE人手編集
雇用者は、次の各号の一に該当する場合を除いて、解雇の予告によって労働契約を終了させることはできない。

人手で編集するときは、次のような点に注意します。

  • 公文書の書き方にならって、主語を前に出して、明確にする。
  • 「各号の一に該当する」というような法律文の書き方を採用する
  • こうすることで、和訳文が大変読みやすく、理解しやすくなります。

    2.契約書のAI中国語翻訳

    次に契約書の中国語翻訳について、例を挙げて見てみます。台湾の求人サイトが公開している業務委託契約書の雛形を使って、AIで和訳してみます。

    【原文】
    第若乙方未能依照期限繳交專案,須提前向甲方說明且經甲方同意後,延長繳交專案之期限。乙方除甲方同意或不可抗力之因素外,逾期繳交,乙方需支付甲方違約金新台幣__元整。

    ※出典: 1111人力銀行合約範本「勞務類」(業務委託契約第二条2)

    【AI中国語翻訳】
    乙が期限内に納品できない場合は、事前に甲へ説明し、甲の同意を得たうえで納品期限を延長すること。乙が甲の同意または不可抗力による場合を除き納品が遅延した場合、乙は甲に対し違約金新台湾ドル__元を支払うものとする。

    契約書の分野は、AI中国語翻訳に比較的向いていると言えます。意味を理解するだけなら、AI中国語翻訳のままでも使えそうですが、ポストエディット人手編集を入れることで、一層読みやすく、理解しやすい和訳文になります。では、上述の法律の解説と同じように、主語と述語を明確にして、契約書の表現に手直ししてみます。

    AI中国語翻訳
    乙が期限内に納品できない場合は、事前に甲へ説明し、甲の同意を得たうえで納品期限を延長すること。乙が甲の同意または不可抗力による場合を除き納品が遅延した場合、乙は甲に対し違約金新台湾ドル__元を支払うものとする。
    PE人手編集
    乙は、期限に納入ができないとき、事前に甲へ説明し、甲の同意を得て、納期を延長するものとする。乙は、甲の同意を得たとき、あるいは不可抗力によるときを除き、納期に遅れた場合は、違約金として甲に新台湾ドル__元を支払わなければならない。

    少し余談ですが、AIは時々予想外のミスや誤訳を出してくることもあります。例えば、

    【原文】
    發包單位 (以下簡稱甲方)
    立合約人 (以下簡稱乙方)
    【AI中国語訳文】
    発注者:(以下「甲」と称す)
    受注者:(以下「乙」と称す)

    一瞬、見過ごしてしまいそうですが、よくみると「『甲』と称す」ではなく、「『甲』という。」が正しいと思われます。こうした間違いは、AIに一度指示を出すと次からは改善された訳文があがってきます。事前準備のプロンプトに入れるのも有効な手段です。

    3.専門用語のAI中国語翻訳と用語集

    中国語翻訳では必須のグロッサリー「用語集」もAIに第一段階の作業を依頼することができます。例えば、上述の台湾労働基準法の第一章から第三章をAIを使って、専門用語を抜き出した用語集を作成すると次のようなものを作ることができます。

    問題は、これらが本当に必要な専門用語なのか、また、日本語訳は正しいのかということを人手で精査する必要があります。ここでも「人の力」が中国語翻訳の精度を高める鍵を握ります。こうした用語集はAIが作ったものがそのまま使えることはほとんどなく、弊社は常に人手で精査しながら編集を行っています。用語集は構築していくと、次回の中国語翻訳に役立てることができるため、大変有効な手段です。

    4.まとめ

    いかがでしたか。AIを使って中国語翻訳作業の効率を高めることは、間違いなく可能です。繰り返しになりますが、品質を向上させるためには、AIが下訳をする前の事前準備と、AIが中国語翻訳した後のポストエディット(人手編集)が成功の鍵を握ります。


    私たちミエトランスレーションサービスは中国語専門の翻訳会社として、日々AI中国語翻訳を研究しています。中国語翻訳にAIを導入するための知識とノウハウを持ち合わせており、入念な事前準備、プロンプトの作成、AI中国語翻訳後のポストエディットによって、「人手翻訳+人手校正」に遜色のない品質に仕上げることができます。ぜひ、一度お試しください。詳しくは コチラをどうぞご覧ください。お問い合わせはお気軽に、info@mietranslation.com.tw までご連絡くださいませ。